Power Automate for desktopで基幹システムへの転記を自動化する ── Excel・紙からの手入力をUI自動化に置き換える

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「Webの注文フォームやメールで届いた注文を、担当者が毎日、社内の販売管理システムに手で打ち直している」「勤怠や申請のExcelを月末にまとめて基幹システムへ転記するのに丸2日かかる」。こういう相談をよく受けます。共通するのは、転記先が10年、20年と使われてきた古い業務システム(WinFormsやVB6時代の画面、専用クライアント)で、APIもCSV取込機能もない、ということです。

システムを改修すれば根本解決ですが、ベンダーがもういない、ソースコードがない、改修費用が見合わない、という理由で手入力が続いているケースは珍しくありません。この隙間を埋める現実的な道具が、Power Automate for desktop (PAD)によるUI自動化です。人がやっているキーボード入力とマウス操作をそのまま再現するので、転記先のシステムに手を入れずに自動化できます。Windows 11なら追加インストールなしで試せる手軽さもあります。

ただ、UI自動化は「最初に動かすのは簡単、安定して動かし続けるのは難しい」道具でもあります。この記事では、転記業務に絞って、そもそもUI自動化を選ぶべきかの判断から、無料で使える範囲とライセンスの境界、安定稼働のための設計、失敗時のリカバリまでを整理します。Power Automate全体の使い分けやエラー処理の一般論は「Power Automateで業務を自動化する ── クラウドフロー・デスクトップフローの使い分けとエラー処理設計」で書いたので、こちらは転記業務への各論です。

1. まず結論

  • UI自動化は最後の手段です。転記先にCSV取込・データベース直接投入・API・ファイル連携の口がないか先に探します。1つでもあれば、そちらのほうが確実に安定します。
  • PADはWindows 11に標準で組み込まれており、Windows 10でも無料でインストールできます。レコーダーと400以上のアクションで、Excelを読んで画面に入力する転記フローはノーコードで組めます。12
  • フローを作って手元で実行する(有人実行)だけなら追加費用はかかりません。職場・学校アカウントでもMicrosoftアカウントでも同様です。一方、クラウドフローからの自動起動・スケジュール実行・フロー共有にはPower Automate Premiumライセンスが必要になります。34
  • 夜間バッチのような無人実行(unattended)には、さらにマシン登録とPower Automate Processライセンスが必要です。技術面でも「全ユーザーがサインアウト済みであること」など固有の前提があります。56
  • 安定稼働の鍵はセレクターの作り方・要素待機・1件単位の例外処理の3点です。固定のWaitを並べたフローは、いつか必ず壊れます。789
  • 失敗時に「どこまで入力されたか」が分かるよう、入力元Excelに状態列と登録番号列を持たせ、1件ごとに書き戻す設計を最初から入れます。これで再実行しても二重入力が起きません。
  • 画面変更で壊れる宿命はなくならないため、件数が多い・止められない・対象アプリの更新が頻繁という業務は、データ連携開発や基幹システム改修の領域です。線引きは8章で整理します。

2. 転記作業の何が問題か

Excelや紙から基幹システムへの転記は、「単純作業に時間を取られる」以上の問題を抱えています。相談を受けていて共通するのは次の3つです。

  • 時間が締め日に集中する。日々の受注入力ならまだ分散しますが、月末締めの請求処理や勤怠集計は、締め日直後の1〜2日に転記が集中します。その期間、担当者は他の仕事がほぼできません。残業や応援で吸収している会社が多いはずです。
  • 入力ミスが下流まで流れる。桁の打ち間違い、行のずれ、商品コードの取り違え。転記ミスは請求書や在庫数に化けてから発覚するので、原因調査と訂正の手間は入力ミス自体の何倍にもなります。ダブルチェックを挟めばミスは減りますが、その分時間は増えます。
  • その人しかできない作業になる。「この画面はこの順番で入れないとエラーになる」「この得意先だけは特殊な入れ方をする」といったノウハウが担当者の頭の中に溜まり、休まれると業務が止まります。

自動化の価値は時間短縮だけではありません。フローは決めた通りにしか入力しないので転記ミスがなくなり、手順がフローとして形に残るので属人化も緩和されます。締め日の山を平らにできることも大きいです。

なお、転記元が紙やFAXの場合は、その手前に「読み取り」の工程が必要です。FAX注文書のOCRについては同時公開の「FAX注文書をAI Builderで読み取ってPower Automateで処理する」で扱っているので、この記事では転記元は「Excelなどのデータになっている」前提で進めます。

3. 自動化手段の選択肢 ── UI自動化は最後の手段

最初に強調したいのは、画面操作の自動化(UI自動化)は選択肢の最後だということです。UI自動化は画面のレイアウトや解像度、応答速度といった「表示の都合」に依存するため、どれだけ丁寧に作っても、データを直接受け渡す方式より壊れやすいのは避けられません。転記先の基幹システムに次のような口がないか、先に確認します。

連携手段 確認すること 安定性 備考
CSV・固定長ファイルの取込機能 メニューの奥に「外部データ取込」「一括登録」がないか。ベンダーのマニュアル・サポートに確認 古い業務システムでも意外と持っていることが多い。取込ファイルの生成はPADやPowerShellで自動化できる
データベース直接投入 DBの種類と接続情報が分かるか。ベンダーの保守契約上、直接書込みが許されるか 業務ロジック(採番・整合性チェック)を迂回する危険があるため、参照は直接・更新は慎重に。要検証
API・連携ミドルウェア 型番の新しいパッケージなら連携オプションがないか オプション費用と天秤にかける
ファイル連携(監視フォルダ) 指定フォルダに置いたファイルを取り込む仕組みがないか 帳票システムや倉庫システムでよくある形
UI自動化(PAD) 上のいずれもない場合 画面に手を入れずに済む唯一の方法。この記事の主題

もう1つの選択肢は、転記を「なくす」方向、つまり基幹システム側の改修や作り直しです。VB6アプリに取込機能を追加する、あるいはWeb化して受注の入口から作り替える判断については「VB6アプリを.NETへ移行する ── 事前調査・互換性・段階移行の実践ガイド」と「WindowsアプリをWebに移行すべきか判断する ── 判断基準と現実的な移行パターン」で整理しています。改修には開発費がかかるため、まずPADで自動化して時間を稼ぎ、業務量が増えて限界が見えたら改修に投資する、という順番も現実的です。

4. Power Automate for desktopの基本

導入のハードルは低い

PADはWindows 11に標準で組み込まれています。スタートメニューで「Power Automate」を検索すればアプリが見つかり、初回起動時に自動でダウンロードされて使い始められます。2 Windows 10やWindows Server 2016でも利用権があり、ダウンロードセンターから無料でインストールできます。2 インストール方式はMicrosoft Store版とMSIインストーラー版があり、後述するクラウド連携(マシン登録)まで見据えるなら、マシンランタイムアプリを一緒に入れられるMSI版を選びます。10

レコーダーで骨組みを作る

PADには操作を記録してアクション列に変換するレコーダーがあります。マウスとキーボードの操作をUI要素との関係で記録してくれるので、転記フローの骨組み作りには十分実用的です。ここで転記業務に効くのが、記録方式にUIA (UI Automation)とMSAA (Microsoft Active Accessibility)の2つを選べることです。UIAはWPF・WinForms等の比較的新しいアプリ向けの推奨方式、MSAAはVB6やクラシックWin32のようなUIAで要素が取れない古いアプリのための方式です。古い基幹システムの画面で要素がうまく掴めないときは、レコーダーの記録モードをMSAAに切り替えると掴めることがあります。11

ただし、レコーダーはあくまで骨組み用です。条件分岐やループは記録できないので、記録後にデザイナーで編集して仕上げるのが前提です。11

UI要素とセレクター

PADは画面上のボタンやテキストボックスを「UI要素」として記憶します。実体は、ウィンドウ階層と属性の組み合わせで要素を特定するセレクターです。転記フローの寿命は、ほぼこのセレクターの作り方で決まります。連番のインデックスや動的に変わるIDがセレクターに含まれていると、見た目が同じ画面でもある日突然掴めなくなります。値が変わる属性はEqualsではなくContainsや正規表現に変え、重要な操作には予備のセレクターを設定してフォールバックさせ、壊れたときはRepair selector機能で修復候補を生成する。この基本は全体ガイドで書いた通りです。7

1つ、転記業務ならではの注意があります。UI自動化のアクションは、対象ウィンドウが前面にあることを前提に動き、前面になければ自動的に前面へ持ってきます。12 つまり実行中のPCは基本的に「フローに貸し切り」です。担当者が同じPCで別作業をしながら流す運用は、誤クリックや誤入力のもとになるため避けます。

転記の基本構成: Excelで読んで、画面に書く

転記フローの基本形は「Excelアクションで読む → ループで1件ずつUI操作で書く」です。Launch Excelでファイルを開き、Read from Excel worksheetで範囲を読み取るとデータテーブル変数になります。「先頭行を列名として使う」オプションを付けておくと、後続のループでCurrentItem['得意先コード']のように列名で値を参照でき、列の並び替えに強くなります。13 結果の書き戻しにはWrite to Excel worksheetを使います。行の末尾に追記したい場合は、Get first free row on columnで空き行を探せます。13

5. 無料で使える範囲とライセンスの境界

PADの導入判断で必ず聞かれるのが「どこまで無料で、どこから有料か」です。境界は「作る・手で動かす」と「自動で動かす・組織で管理する」の間にあります。

できること Microsoftアカウント 職場・学校アカウント(追加ライセンスなし) Power Automate Premium
フロー作成・レコーダー・400以上のアクション・例外処理
フローの保存先 OneDrive (個人) 既定環境のDataverse 複数環境のDataverse
PADのコンソールから手動で実行(有人実行)
クラウドフローからの起動(スケジュール・イベント起動) × ×
フローの共有・実行ログの集中管理 × ×

作成と手動実行は、どのアカウントでも追加費用なしです。34 Microsoftアカウントの場合はフローがOneDriveに保存され、職場・学校アカウントの場合は既定環境のDataverseに保存されます。会社で使うなら、後からの管理を考えて職場アカウントで始めるのが基本です。4

境界を越えるのは「人がボタンを押さなくても動く」ようにしたくなったときです。デスクトップフローを決まった時刻やイベントで起動するには、クラウドフローから呼び出す構成にする必要があり、これには次の準備が要ります。14

  1. マシン登録: 実行するPCをPower Automateのクラウドに登録します。MSI版に含まれるマシンランタイムアプリでサインインすると登録されます。なお、Windows 10/11のHomeエディションはこの直接接続に対応していません。10
  2. デスクトップフロー接続: クラウドフローがそのマシンにサインインするための接続(Windowsアカウントの資格情報)を作ります。14
  3. ライセンス: 接続を作成するユーザーが、実行形態に応じたライセンスを持っている必要があります。14 人がサインインしているPC上で動かす有人実行(attended)ならPower Automate Premium(attended RPA権利を含むユーザーライセンス)が必要です。106
  4. 無人実行(unattended)にはさらにPower Automate Processライセンスをマシンに割り当てます。Processライセンスはユーザーではなくマシン(またはフロー)に付くライセンスで、マシン1台につき1つの無人実行枠(無人ボット)が得られます。注意点として、Processライセンスを割り当てるマシンは、Premiumライセンスを持つユーザーによって登録済みであることが前提です。つまりProcessだけ買ってもPremiumユーザーがいないと構成できません56

まとめると、「担当者が朝ボタンを押して、目の前で転記が流れるのを見ている」運用なら無料範囲で完結します。「夜中に勝手に終わっている」運用にはPremium+Process(+登録済みマシン)が必要です。転記の所要時間が1日30分程度なら、まず無料の有人実行で始めて、件数が増えてから無人化を検討する順番で十分です。ライセンス全体の考え方(標準/プレミアムコネクタの境界を含む)は同時公開の「Power Automateのライセンスと標準・プレミアムコネクタの境界」に詳しくまとめています。

6. 安定して動かすための設計

固定Waitではなく「要素を待つ」

古い基幹システムは、検索や登録の応答時間が負荷によって大きく揺れます。「3秒待つ」のような固定Waitで調整したフローは、システムが遅い日に必ず壊れます。Wait for window contentアクションで「特定のUI要素やテキストが現れる(消える)まで待つ」形にするのが基本です。8 ウィンドウの取得(Get window)にもタイムアウトを設定でき、「見つからなければ指定秒数で失敗」とするか「現れるまで待つ」かを選べます。8 「登録完了のメッセージが表示されるまで待ってから次の行へ進む」という待ち方が、転記フローでは特に重要です。待たずに次の入力を始めると、前の行の登録が終わっていないまま画面が切り替わり、データが混ざります。

例外処理は「1件単位」で組む

転記フローの例外処理は、フロー全体ではなくループの中の1件分をOn Block Errorで囲むのが定石です。エラー時はその行の失敗内容を記録して、画面を初期状態(入力画面を閉じてメニューに戻す等)に戻し、次の行へ進みます。こうすると、100件中1件だけ商品コードが間違っていても、99件は入力が終わり、失敗した1件だけが人の手に残ります。一時的なエラー(応答遅延など)にはアクション単位のリトライ設定も併用できます。9 エラー処理の細かい作法(Get last errorでのエラー内容取得、後片付けの設計など)は全体ガイドと、同時公開の「Power Automateのエラー処理とリトライ設計」に譲ります。

失敗しても「どこまで入力したか」が分かるようにする

UI自動化には、Webシステムのようなトランザクションがありません。フローが途中で落ちたとき、「どの行まで基幹システムに登録済みか」が分からないと、再実行で二重入力するか、全件目視で突き合わせるかの二択になってしまいます。これを防ぐ設計が2つあります。

  1. 入力元Excelに状態列を持たせる。「未処理」「処理中」「完了」「エラー」の状態列と、基幹システムが採番した登録番号の列を用意します。1件の入力を始める前に「処理中」にし、登録完了を画面で確認して登録番号を読み取ってから「完了」+登録番号を書き戻します。フローの対象は常に「未処理」の行だけにするので、何度再実行しても入力済みの行には触りません(再実行安全)。
  2. 「処理中」のまま残った行だけは人が確認する。フローが落ちるとしたら入力の途中なので、疑わしいのは「処理中」の行だけです。再実行の前にその行だけ基幹システム側を確認すればよく、突き合わせ範囲が100件から1件になります。

この状態列は、そのまま実行記録にもなります。「昨日の転記は全部終わったのか」が、フローの実行履歴を見なくてもExcelを開けば分かる。現場に説明しやすい形です。

無人実行の環境の罠

有人実行では動いていたフローが、無人化した途端に動かなくなる相談は本当に多いです。原因はだいたい環境の差にあります。

  • セッションの前提: 無人実行では、Power Automateが対象マシンにリモートデスクトップ(RDP)セッションを新しく作り、実行後にサインアウトします。実行中、対象マシンの画面はロックされたままです。前提としてマシンは全ユーザーがサインアウト済みでなければならず、Windows 10/11では、誰かのセッションが(ロック状態でも)残っていると実行に失敗します。Windows Serverの場合は、接続と同じユーザーのロック済みセッションが残っているとエラーになります。保守作業のあと「ロック」や「切断」で離席する癖があると、夜のフローが止まります。必ずサインアウトが合言葉です。5
  • 権限: 接続に使うユーザーは、そのマシンにRDPセッションを作れる必要があります(通常はRemote Desktop Usersグループへの所属)。また、無人実行は管理者権限への昇格を伴う操作をサポートしません。5
  • 画面解像度: RDPセッションの既定解像度は、フローを作ったときの画面と違うことがあります。解像度が下がると、作成時には見えていたUI要素が画面外に隠れて「要素が見つからない」で失敗したり、座標系の操作が別の場所を押したりします。5 対策として、フローのプロパティで「無人実行時の画面解像度」を作成時と同じ値に固定できます。15 DPIスケーリングの違いも同種の失敗原因になるため、作成時と実行時で100%に揃えておくのが無難です。16

このあたりを検証してから、スケジュール起動(平日の毎朝6時に実行、など)をクラウドフロー側で設定します。営業日判定や月末処理を含むスケジュール設計は、同時公開の「Power Automateの定期実行フローと営業日設計」で扱っています。

7. 転記フローの実例設計

ここまでの部品を組み合わせて、「注文一覧Excel → 基幹システムの受注入力画面 → 結果をExcelへ書き戻し」という典型的な転記フローを設計するとこうなります。

ないある1件でエラー発生全件処理済み開始: 手動またはクラウドフローから起動Read from Excel worksheet注文一覧を読み取り 先頭行は列名状態列が「未処理」の行はあるか処理結果を集計してログ・通知終了基幹システムを起動してログインメニュー画面の表示を要素待機で確認未処理の行を1件ずつループループ内をOn Block Errorで囲む状態列を「処理中」に更新受注入力画面を開き項目を入力画面遷移ごとにWait for window content登録ボタン → 完了メッセージを待機採番された登録番号を画面から取得状態列を「完了」にし登録番号を書き戻しエラー内容を行に記録登録前の失敗は「エラー」/登録後の失敗は「処理中」のまま画面をメニューまで戻して次の行へ基幹システムをログアウトして閉じる

設計上のポイントを補足します。

  • 入力値の検証はUI操作の前にやる。商品コードの桁数、数値項目に文字が入っていないか、必須項目の欠落。Excelを読んだ直後にフロー側で検証し、おかしい行は基幹システムに触る前に「エラー」にします。基幹システムのエラーダイアログをUI操作でさばくより、手前で弾くほうが何倍も安定します。
  • 「エラー」にしてよいのは登録ボタンを押す前の失敗だけ。エラー処理で状態列を一律「エラー」に書き換えると、登録ボタンの操作が成功した後(完了メッセージの待機や書き戻しの途中)で失敗した行まで「エラー」になり、担当者がその行を再実行して基幹システムに二重登録される事故につながります。登録操作より後の失敗は状態列を「処理中」のまま残し、「処理中」で終わっている行は再実行の対象にせず、基幹システム側の登録有無を人が突き合わせてから「完了」か「未処理」に戻す運用にします。曖昧さを消すのではなく、曖昧なまま人の確認に回すのがこの設計の要点です。
  • 画面のエラーダイアログを想定する。それでも入力時エラー(在庫不足、得意先の与信エラーなど)は起きます。想定できるダイアログは「ウィンドウが含まれるか」の条件分岐で拾って行のエラー内容に記録し、想定外のものはOn Block Errorに任せます。9
  • 件数と時間の目安を持つ。UI自動化は1件あたり数十秒かかることも珍しくありません。100件で1時間なら夜間の無人実行で十分収まりますが、毎日数千件あるならUI自動化という手段自体を見直すサインです(次章)。
  • 入力元の正規化は手前で済ませる。文字コードや日付形式の揺れ、全角半角の混在といったCSV・Excel由来の落とし穴は「CSVファイル処理の実践ガイド ── 文字化け・0落ち・日付崩れを防ぐ」で整理しています。

8. どこまでPADでやるか

UI自動化は、画面が変わればいつか壊れます。これは設計でどうにかなる話ではなく、この方式の宿命です。だからこそ、「PADで自動化してよい転記」と「開発・改修に進むべき転記」の線引きを持っておく必要があります。

状況 判断
1日数十〜数百件、失敗しても翌営業日の再実行で間に合う PADで十分。まず有人実行から
対象アプリの画面が何年も変わっていない(塩漬けのレガシーアプリ) PAD向き。皮肉なことに「変わらない画面」はUI自動化と相性がよい
対象アプリが頻繁にバージョンアップされる(SaaSのWeb画面など) セレクター保守が続く前提で判断。更新のたびに壊れるならUI自動化は不向き
毎日数千件以上、実行時間が業務時間を圧迫する UI自動化の処理速度では頭打ち。CSV取込機能の追加開発やデータ連携の開発(受託)の領域
止まると当日の出荷・請求が止まる基幹業務 「壊れたら直るまで手入力に戻す」が許されないならUI自動化は不適。基幹システム改修・システム間連携の開発を検討
転記のついでに複雑な業務判断(在庫引当、価格決定)をさせたい フローに業務ロジックを埋めるのは保守しきれない。業務ロジックはシステム側に置くべき領域

判断の感覚としては、「このフローが1週間壊れたままでも、手入力に戻せば業務が回るか」を目安にしています。回るならPADで自動化する価値が十分あります。回らないなら、その転記はもう「自動化」ではなく「システム連携」の要件であり、取込機能の追加、データベース連携、あるいは受発注そのものの電子化(EDIFAX受注のWeb化)を検討する段階です。

もう1つ、PADのフローも「作った人しか触れない資産」になりがちです。フローの中身・接続・実行マシンを誰が引き継ぐのかは、同時公開の「Power Automateの属人化対策 ── 所有者・接続・引き継ぎの設計」で整理しています。

9. まとめ

APIもCSV取込もない基幹システムへの転記は、PADのUI自動化で「システムに手を入れずに」自動化できます。Windows 11なら標準で使い始められ、作って手元で動かすだけなら追加費用もかかりません。担当者が毎日1時間の転記から解放され、転記ミスの調査・訂正がなくなるだけでも、導入の手間は十分に回収できます。

ただし、順番と設計を間違えないことが重要です。UI自動化の前にCSV取込・DB・API・ファイル連携の口を探すこと。無料の有人実行から始めて、無人化にはPremium+Processライセンスとサインアウト済みマシンという前提を押さえること。セレクターと要素待機と1件単位の例外処理で安定させ、状態列の書き戻しで「どこまで入力したか」を常に残すこと。そして、件数・重要度・画面の変更頻度がUI自動化の守備範囲を超えたら、無理に育てず、基幹システムの改修やデータ連携開発へ切り替えることです。

当社では、PADによる転記自動化の設計レビューから、その先の取込機能追加・システム間連携の受託開発、レガシーアプリの移行まで一続きで相談を受けています。「うちの基幹システムでもできるのか」という段階からでも、お気軽にどうぞ。

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合同会社小村ソフトでは、Power Automate for desktopによる転記自動化の設計・安定化の相談から、UI自動化では収まらない基幹システムのデータ連携開発・レガシーアプリ改修まで扱っています。

参考リンク

  1. Microsoft Learn, Get started with Power Automate in Windows 11. Windows 11にプレインストールされたPower Automateアプリ、400以上のアクションとレコーダーによりコーディング経験がなくてもフローを作成できることについて。 

  2. Microsoft Learn, Power Automate licensing FAQ. Windows 11ユーザーは既定環境で有人RPAのデスクトップフローを追加費用なしで利用でき(共有や他環境での作成は不可)、Windowsの検索バーからPower Automateを検索すると初回起動時に自動ダウンロードされること、Windows 10・Windows Server 2016でも利用権がありダウンロードセンターから入手できることについて。  2 3

  3. Microsoft Learn, Get started with a work or school account. 職場・学校アカウントでのPower Automate for desktop利用は追加費用なしであること、既定環境にDataverseデータベースが必要なこと、自動実行やフロー共有などのRPA機能の解放にはプレミアムへのアップグレードが必要なことについて。  2

  4. Microsoft Learn, Prerequisites and limitations. サインインアカウント種別(Microsoftアカウント/職場・学校アカウント/組織プレミアムアカウント)ごとの機能比較。レコーダー・アクション・例外処理は全アカウントで利用でき、クラウドフローとの接続(起動・スケジュール)、共有、集中管理・レポートはプレミアムのみであること、保存先がOneDriveまたはDataverseであることについて。  2 3

  5. Microsoft Learn, Run unattended desktop flows. 無人実行にPower Automate Processプランが必要なこと、Power AutomateがRDPセッションを作成して実行後にサインアウトすること、実行中は画面がロックされること、全ユーザーのサインアウトが必要でWindows 10/11ではロック中を含む残存セッションがあると失敗すること、接続ユーザーにRDPセッション作成権限(Remote Desktop Usersグループ)が必要なこと、管理者昇格を伴う実行が不可なこと、RDPセッションの既定解像度が作成時と異なり要素が見つからない失敗につながり得ることについて。  2 3 4 5

  6. Microsoft Learn, Types of Power Automate licenses. 有人RPA権利(マシン登録・有人実行のトリガー等)がPremiumユーザーライセンスに含まれること、無人RPAにはマシンに割り当てるProcessライセンス(マシン1台あたり無人ボット1つ)が必要なこと、Processライセンスのマシンへの割り当てはPremiumユーザーによるマシン登録が前提であることについて。  2 3

  7. Microsoft Learn, Build a custom selector. 変化する属性をEqualsではなくContainsや正規表現にして動的で壊れにくいセレクターを作ること、複数セレクターによるフォールバック、Repair selectorによる修復候補の生成について。  2

  8. Microsoft Learn, UI automation actions. Wait for window contentアクションによる特定のテキスト・UI要素の出現/消滅までの待機、Get windowアクションのタイムアウト設定(指定時間内に見つからなければ失敗させるか待ち続けるかの選択)について。  2 3

  9. Microsoft Learn, Handle errors in desktop flows. On Block Errorによるブロック単位の例外処理、アクション単位のリトライ設定(Retry action if an error occurs)について。  2 3

  10. Microsoft Learn, Manage machines. マシンランタイムアプリ(MSIインストーラーに同梱)によるマシン登録、Windows 10 Home・Windows 11 Homeでは直接接続が利用できないこと、クラウドフローからのデスクトップフロー起動には有人RPA付きプレミアムユーザープランが必要なこと、無人実行にはマシンへのプロセス容量(無人ボット)の割り当てが必要なことについて。  2 3

  11. Microsoft Learn, Record desktop flows. レコーダーがマウス・キーボード操作をUI要素との関係で記録してアクションに変換すること、記録方式としてUIA(WPF・WinForms等の新しいフレームワーク向け推奨)とMSAA(VB6やクラシックWin32などUIA非対応のレガシーアプリ向け)を選択できること、条件分岐やループは記録できず記録後の編集が前提であることについて。  2

  12. Microsoft Learn, Automate desktop applications. UI自動化アクションは対象ウィンドウが前面にあることを必要とし、前面にない場合は自動的に前面へ移動させることについて。 

  13. Microsoft Learn, Excel actions. Launch Excelによるインスタンス作成、Read from Excel worksheetでの単一セル・範囲の読み取り(データテーブル化、先頭行を列名として扱うオプション)、Write to Excel worksheetによる書き込み、Get first free row on columnによる空き行の取得について。  2

  14. Microsoft Learn, Trigger desktop flows from cloud flows. クラウドフローからデスクトップフローを起動する前提条件(登録済みマシンまたはマシングループ、職場・学校アカウント、デスクトップフロー接続、接続作成者が実行形態に応じたライセンスを持つこと)、入出力変数によるクラウド・デスクトップ間のデータ受け渡しについて。  2 3

  15. Microsoft Learn, Set screen resolution on unattended mode. 無人実行時の解像度が作成時より低くなり要素が隠れて失敗する場合に、フローのプロパティ(Display resolution for unattended runs)またはレジストリで解像度を固定できることについて。 

  16. Microsoft Learn, Troubleshoot unattended desktop flow execution failures. 有人・無人セッション間の解像度やDPIスケーリングの差が失敗の原因になること、DPIを設計時・実行時とも100%に揃える等の対策について。 

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よくある質問

この記事のテーマについて、相談時によくある質問をまとめています。

Power Automate for desktopは無料で使えますか?
使えます。Windows 11にはPower Automateアプリが標準で組み込まれており、Windows 10でもマイクロソフトのダウンロードセンターから無料でインストールできます。職場・学校アカウントでも追加費用なしで、レコーダーや400以上のアクション、例外処理などフロー作成と手動実行(有人実行)の機能一式が使えます。ただし、クラウドフローからの自動起動、フローの共有、実行ログの集中管理には有償のPower Automate Premiumライセンスが必要です。
夜間や早朝に人がいない状態で転記フローを動かすには何が必要ですか?
無人実行(unattended)には、クラウドフローから呼び出す構成が必要で、対象マシンの登録、デスクトップフロー接続の作成、そしてマシンに割り当てるPower Automate Processライセンスが前提になります。マシンの登録自体もPremiumライセンスを持つユーザーが行う必要があります。技術面では、無人実行はリモートデスクトップセッションを新規に作って動くため、対象マシンは全ユーザーがサインアウト済みでなければならず、ロック中のセッションが1つでも残っているとWindows 10/11では実行に失敗します。
UI自動化は壊れやすいと聞きますが、実用になりますか?
対象の基幹システムの画面が安定していれば実用になります。壊れる原因の大半はUI要素の特定方法(セレクター)と待機不足なので、変化する属性をContainsや正規表現に変える、予備のセレクターを設定する、固定待機ではなく要素の出現を待つアクションを使う、といった設計で安定度は大きく変わります。ただし、画面レイアウトの変更で壊れる宿命自体はなくならないため、対象アプリの更新頻度が高い場合や、止まると業務が回らない件数・重要度の処理は、UI自動化ではなくデータ連携の開発や基幹システム側の改修を検討すべきです。
転記フローが途中で失敗したら、どこまで入力されたか分からなくなりませんか?
設計しだいで防げます。ポイントは、入力元のExcelに状態列(未処理・処理中・完了・エラー)と登録番号列を持たせ、1件入力するごとに基幹システム側の登録結果を確認してから状態を書き戻すことです。こうしておけば、失敗時にどの行まで登録済みかがExcel側に残り、再実行しても「未処理」の行だけを対象にするため二重入力が起きません。1件ごとの例外処理でエラー行を記録して次の行へ進む形にすれば、1件の入力ミスで全体が止まることも避けられます。

著者プロフィール

記事の著者プロフィールページです。

小村 豪

合同会社小村ソフト 代表

Windows ソフト開発、技術相談、不具合調査を中心に、既存資産が残る案件や原因が見えにくい障害調査に強みがあります。

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