Windows アプリのクラッシュダンプ収集入門 - まず WER / ProcDump / WinDbg をどう使い分けるか
Windows アプリで「たまにだけ落ちる」が始まると、ログだけでは追い切れない場面がかなりあります。
特に、次のようなケースです。
- 顧客環境でしか起きない
- 例外メッセージは取れているが、呼び出し元の文脈が足りない
- C# / .NET の managed 側だけでなく、COM、P/Invoke、native DLL、vendor SDK が絡む
- 長時間運転後にだけ落ちる
こういうときに効くのがクラッシュダンプです。クラッシュ時点のプロセス状態をファイルに落としておけば、例外コード、落ちたスレッドのスタック、読み込まれていたモジュール、メモリの一部または全部を後から読めます。
Windows では、まず WER の LocalDumps、必要に応じて Sysinternals ProcDump、さらに制御したくなったら MiniDumpWriteDump を使う、という順で考えるのが分かりやすいです。この記事では、Windows デスクトップアプリ、常駐アプリ、Windows サービス、装置連携ツールなどを前提に、クラッシュダンプ収集の最初の一歩を整理します。
目次
- 1. まず結論
- 2. クラッシュダンプで何が分かるか
- 3. 収集方法の全体像
- 4. 最初のおすすめは WER LocalDumps
- 4.1 まず見るレジストリ値
- 4.2 アプリ単位で設定する例
- 4.3 取れたか確認する
- 5. ProcDump を使う場面
- 5.1 よく使うオプション
- 5.2 代表的なコマンド例
- 既に起動中のプロセスを、未処理例外でフルダンプ
- 次回起動を待って、未処理例外でフルダンプ
- 自分で起動して、そのまま監視
- first chance exception も取りたい
- ハングを取りたい
- 5.3 -i を最初の一手にしない理由
- 6. 自前収集で MiniDumpWriteDump を使うときの考え方
- 7. ミニダンプ / フルダンプ / 中間サイズの選び方
- 8. 運用で先に決めておくこと
- 8.1 PDB とバイナリをどう残すか
- 8.2 どこへ出して、何個残すか
- 8.3 誰が見てよいか
- 9. 取れた後の最短解析導線
- 9.1 WinDbg を入れる
- 9.2 ダンプを開く
- 9.3 シンボルを設定する
- 9.4 まずは自動解析を見る
- 10. よくあるはまりどころ
- 10.1 ダンプは取れたが、PDB がない
- 10.2 DumpFolder の ACL を見ていない
- 10.3 フルダンプを本番機のシステムドライブへ出し続ける
- 10.4 WER だけで hang も全部見ようとする
- 10.5 -e 1 を常時入れて、例外の嵐になる
- 11. まとめ
- 12. 参考資料
1. まず結論
最初に押さえたい点だけを先に並べます。
- まずは WER LocalDumps をアプリ単位で設定する のが無難です。追加ツールなしで、クラッシュ後にローカルへダンプを残せます。
- 再現率の低い現場調査や、first chance exception / hang まで見たいなら ProcDump を使います。
- 自前収集は最後に考える くらいでちょうどよいです。必要になってから
MiniDumpWriteDumpを検討すれば十分です。 - ダンプと同じくらい大事なのが PDB と配布バイナリの保管です。ダンプだけあっても、シンボルがなければ読める量がかなり減ります。
- フルダンプは強いが、サイズと機密情報の混入リスクも強いです。保管場所、保持数、アクセス権、共有手順を先に決めます。
入門段階のおすすめ構成は、だいたい次です。
| 環境 | まずの構成 |
|---|---|
| 開発機 / 検証機 | WER LocalDumps をアプリ単位で設定し、まずは DumpType=2 のフルダンプ |
| 顧客環境 / 現場機 | 容量と機密要件を見て DumpType=1 か 2 を選ぶ。必要時だけ ProcDump を追加 |
| 長時間運転や hang 調査 | WER に加えて ProcDump の -h や -e 1 を検討 |
| 独自 UI や添付ログも含めたい | 別プロセス前提で MiniDumpWriteDump を使う自前収集 |
要するに、最初は WER、次に ProcDump、最後に自前です。ここを逆順で始めると、だいたい設計が重くなります。
2. クラッシュダンプで何が分かるか
クラッシュダンプは、「その瞬間のスナップショット」です。防犯カメラというより、事故現場の静止画に近いです。
そのため、次のような情報はかなり取りやすいです。
- どの例外コードで落ちたか
- どのスレッドが落ちたか
- その時点のコールスタック
- 読み込まれていたモジュール
- どの程度のメモリを含めたかに応じて、ヒープ上の状態やオブジェクトの中身
一方で、次のようなものはダンプだけでは不足しやすいです。
- そこへ至るまでの時系列
- 数時間前からの増加傾向
- 通信や装置との外部状態
- 直前の入力や業務文脈
なので実務では、ダンプだけで完結しようとせず、ログや heartbeat と組み合わせるのが基本です。
3. 収集方法の全体像
Windows アプリのダンプ収集で、入門段階で押さえたい方法は次の 4 つです。
| 方法 | 向いている場面 | 強み | 注意点 |
|---|---|---|---|
| WER LocalDumps | まず常設したいクラッシュ収集 | Windows 標準。アプリ単位で設定しやすい | 基本はクラッシュ向け。hang や細かい条件分岐は弱い |
| ProcDump | 再現率が低い調査、hang、first chance exception | トリガーが多い。現場投入しやすい | 外部ツール運用になる |
| タスク マネージャーのダンプ作成 | 手動で今の状態を取りたい | GUI でその場で取れる | 自動収集ではない |
MiniDumpWriteDump |
自前の診断機能を作りたい | 添付ログや独自メタデータを合わせやすい | 実装を雑にすると逆に壊れる |
初心者にとって一番大事なのは、「何で取るか」より先に、「どの条件で」「どこへ」「どのサイズで」取るかを決めることです。
4. 最初のおすすめは WER LocalDumps
4.1 まず見るレジストリ値
Windows Error Reporting (WER) には、クラッシュ後にローカルへユーザーモードダンプを保存する LocalDumps があります。追加ツールを配らなくてよいので、まずの一手としてかなり扱いやすいです。
基本のキーは次です。
HKEY_LOCAL_MACHINE\SOFTWARE\Microsoft\Windows\Windows Error Reporting\LocalDumps
ここにグローバル設定を置くこともできますが、実務では アプリ単位のサブキーに寄せる方が扱いやすいです。
HKEY_LOCAL_MACHINE\SOFTWARE\Microsoft\Windows\Windows Error Reporting\LocalDumps\MyApp.exe
最初に見る値は 3 つです。
| 値 | 意味 | まずのおすすめ |
|---|---|---|
DumpFolder |
ダンプの出力先 | 専用フォルダを切る |
DumpCount |
保持数 | 5〜10 くらいから |
DumpType |
0=カスタム、1=ミニ、2=フル | 最初は 2、容量が厳しければ 1 |
4.2 アプリ単位で設定する例
たとえば MyApp.exe について、C:\CrashDumps\MyApp にフルダンプを最大 10 個残したいなら、まずは次のように設定できます。
reg add "HKLM\SOFTWARE\Microsoft\Windows\Windows Error Reporting\LocalDumps\MyApp.exe" /f
reg add "HKLM\SOFTWARE\Microsoft\Windows\Windows Error Reporting\LocalDumps\MyApp.exe" /v DumpFolder /t REG_EXPAND_SZ /d "C:\CrashDumps\MyApp" /f
reg add "HKLM\SOFTWARE\Microsoft\Windows\Windows Error Reporting\LocalDumps\MyApp.exe" /v DumpCount /t REG_DWORD /d 10 /f
reg add "HKLM\SOFTWARE\Microsoft\Windows\Windows Error Reporting\LocalDumps\MyApp.exe" /v DumpType /t REG_DWORD /d 2 /f
この例でのポイントは次です。
- グローバルではなく
MyApp.exeに限定している - 出力先を専用フォルダに分離している
- まずはフルダンプにしている
- 保持数を 10 に制限している
4.3 取れたか確認する
設定を入れたら、本番で自然発生を待つ前に 検証環境で必ず 1 回は取り切る方が安全です。
確認ポイントは次です。
- 想定のフォルダに
.dmpが出るか - サイズが運用想定に合うか
- WinDbg で開けるか
- Event Viewer の Application ログで crash が見えているか
5. ProcDump を使う場面
WER で十分なことは多いですが、次のようなときは ProcDump が便利です。
- レジストリ常設を避けたい
- 既に起動中のプロセスだけ監視したい
- 次回起動からだけ監視したい
- first chance exception を見たい
- hang を取りたい
- パフォーマンスカウンタや条件付きで採りたい
5.1 よく使うオプション
入門段階でよく使うものだけに絞ると、ProcDump は次を覚えておけばかなり戦えます。
| オプション | 意味 |
|---|---|
-ma |
フルダンプ |
-mp |
MiniPlus ダンプ |
-e |
未処理例外でダンプ |
-e 1 |
first chance / second chance 例外でダンプ |
-h |
ハングしたウィンドウでダンプ |
-w |
対象プロセスの起動待ち |
-x |
対象プロセスを起動して監視 |
-n |
最大ダンプ数 |
-accepteula |
初回 EULA 確認を自動承諾 |
5.2 代表的なコマンド例
既に起動中のプロセスを、未処理例外でフルダンプ
procdump -accepteula -ma -e 1234 C:\CrashDumps\MyApp
次回起動を待って、未処理例外でフルダンプ
procdump -accepteula -ma -e -w MyApp.exe C:\CrashDumps\MyApp
自分で起動して、そのまま監視
procdump -accepteula -ma -e -x C:\CrashDumps\MyApp MyApp.exe
first chance exception も取りたい
procdump -accepteula -ma -n 3 -e 1 MyApp.exe C:\CrashDumps\MyApp
ハングを取りたい
procdump -accepteula -h MyApp.exe C:\CrashDumps\MyApp
5.3 -i を最初の一手にしない理由
ProcDump には -i で postmortem debugger として登録する使い方もあります。これは強力ですが、マシン全体のクラッシュ時挙動に踏み込むので、入門段階の最初の一手には少し重いです。
なので、最初は WER のアプリ単位設定か、ProcDump の -w / -x / PID 指定から入るのが扱いやすいです。
6. 自前収集で MiniDumpWriteDump を使うときの考え方
自前収集が向いているのは、たとえば次のような場面です。
- UI から「診断情報を保存」ボタンを出したい
- ダンプと一緒にログ、設定、トレース ID を束ねたい
- 関連する子プロセスや補助プロセスもまとめたい
- アップロード前に独自のマスキングや圧縮を入れたい
ここで中心になる API が MiniDumpWriteDump です。
ただし、ここは少し癖があります。入門で特に外したくないのは次の 2 点です。
- 可能なら dump 対象とは別プロセスから呼ぶ
- DbgHelp 系は single-threaded 前提で扱う
7. ミニダンプ / フルダンプ / 中間サイズの選び方
ここで迷う人はかなり多いです。実務では次のように考えると整理しやすいです。
| 種類 | 向いている場面 | 良い点 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ミニダンプ | まず広く入れたい、共有を軽くしたい | 小さい、転送しやすい | 状態復元の深さは弱い |
| フルダンプ | 原因調査を優先したい、native 境界やヒープが怪しい | 取れる情報が多い | サイズが大きい、機密混入リスクが高い |
| MiniPlus / Custom | ミニでは足りず、フルは重い | バランスを取れる | 調整の知識が必要 |
初心者向けのおすすめはかなり単純です。
- 開発機 / 検証機ではフルダンプ
- 顧客環境ではミニかフルを運用条件で選ぶ
- メモリ破壊、ネイティブ DLL、COM、P/Invoke、長時間稼働後の状態異常が怪しいならフル寄り
8. 運用で先に決めておくこと
ダンプ収集は、実装より運用で転ぶことがかなりあります。先に決めたいのは次です。
8.1 PDB とバイナリをどう残すか
これが最重要です。
- 配布した EXE / DLL の正確な版
- その版に対応する PDB
- どのコミット / どのビルドパイプラインで作ったか
- インストーラや配布物の版情報
8.2 どこへ出して、何個残すか
フルダンプはかなり大きくなります。最初から次を決めておく方が安全です。
- システムドライブ直下に置きっぱなしにしない
- 専用フォルダへ分離する
DumpCountや-nで上限を切る- 長期保管と一次保管を分ける
8.3 誰が見てよいか
フルダンプには、機密情報や個人情報が混ざる可能性があります。
- 平文設定
- 接続文字列
- トークンや資格情報
- 直前に扱っていた業務データ
- ファイルパスやユーザー名
なので、「取る」設計と同時に「誰が触れてよいか」も決める必要があります。
9. 取れた後の最短解析導線
ダンプを取ったあと、最初にやることは意外と素朴です。
9.1 WinDbg を入れる
今の WinDbg は Microsoft Store か winget で入れやすくなっています。
winget install Microsoft.WinDbg
9.2 ダンプを開く
windbg -z C:\CrashDumps\MyApp\MyApp_YYMMDD_HHMMSS.dmp
9.3 シンボルを設定する
まず Microsoft 公開シンボルを使える状態にして、その後で自分の PDB の場所を足します。
.symfix C:\Symbols\Microsoft
.sympath+ C:\Symbols\MyApp
.reload
9.4 まずは自動解析を見る
!analyze -v
そのうえで、
- どの例外コードか
- faulting module は何か
- 自分のコードがどこまでスタックに見えているか
- 例外スレッド以外に怪しい待ちや詰まりがないか
を順に見ます。
10. よくあるはまりどころ
10.1 ダンプは取れたが、PDB がない
これはかなり多いです。ダンプ収集は成功していても、読む材料が不足します。
収集設定と同じタイミングで、PDB の保管設計も入れる方がよいです。
10.2 DumpFolder の ACL を見ていない
サービスや権限分離されたプロセスでは、ここで空振りしやすいです。
「そのプロセスが本当に書けるか」を先に確認します。
10.3 フルダンプを本番機のシステムドライブへ出し続ける
これは容量事故の定番です。
保持数制限と出力先分離は最初から入れます。
10.4 WER だけで hang も全部見ようとする
WER LocalDumps はまず crash に強いです。
hang や first chance exception は ProcDump の方が向いている場面があります。
10.5 -e 1 を常時入れて、例外の嵐になる
first chance exception は便利ですが、ふつうに多いです。
件数制限を付ける、短時間だけ入れる、対象を限定するのが現実的です。
11. まとめ
クラッシュダンプは、再現率の低い障害に対してかなり強い観測点です。特に Windows アプリで COM、P/Invoke、native DLL、長時間運転が絡むなら、最初から「落ちたら何が残るか」を決めておく価値があります。
おすすめの順番はシンプルです。
- まず WER LocalDumps をアプリ単位で入れる
- 必要なら ProcDump を足す
- さらに制御したくなったら、別プロセス前提で
MiniDumpWriteDumpを使う
この順で進めると、大きく外しにくいです。
12. 参考資料
- Microsoft Learn: ユーザーモード ダンプの収集 - Win32 apps
- Microsoft Learn: ProcDump v11.1 - Sysinternals
- Microsoft Learn: MiniDumpWriteDump function (minidumpapiset.h) - Win32
- Microsoft Learn: User-mode dump files - Windows drivers
- Microsoft Learn: ユーザー モード ダンプ ファイルの分析 - Windows drivers
- Microsoft Learn: Windows デバッガーをインストールする - Windows drivers
- Microsoft Learn: Symbol path for Windows debuggers - Windows drivers
- Microsoft Learn: !analyze (WinDbg) - Windows drivers
- Microsoft Learn: Troubleshoot processes by using Task Manager - Windows Server
- Microsoft Learn: Enabling Postmortem Debugging - Windows drivers
関連トピック
このテーマと近いトピックページです。記事を起点に、関連するサービスや他の記事へ進めます。
Windows技術トピック
Windows 開発、不具合調査、既存資産活用の技術トピックをまとめた入口です。
不具合調査 / 長期稼働テーマ
再現しにくい不具合、通信停止、長期稼働障害、失敗パス検証を整理するトピックです。
このテーマがつながるサービス
この記事は次のサービスページにつながります。近い入口からご覧ください。
不具合調査・原因解析
クラッシュダンプ、ログ、再現条件を組み合わせて切り分ける流れは、不具合調査・原因解析と相性のよいテーマです。特に現場でしか起きないクラッシュや長時間運転後の障害では観測設計そのものが重要になります。
技術相談・設計レビュー
本番で何を採取するか、ダンプとログをどう設計へ織り込むか、権限や保管方針まで含めて整理したい場合は、技術相談・設計レビューとして進めやすいです。