シミュレータで確かめる
距離、周波数、素子数を動かし、伝搬損失、往復時間、配列利得、受動・能動の信号対雑音比がどう変わるかを確かめます。
まず、何を変えると何が変わるかを見よう
式を一つずつ追う前に、次の 4 つを順番に動かしてみましょう。ほかの条件を固定して一つだけ変えると、原因と結果がつかみやすくなります。
- 距離を長くすると、片道の伝搬損失(TL)と往復時間が増え、信号対雑音比(SNR)は下がります。
- 周波数を高くすると、波長は短くなります。その一方で吸収が増えやすく、遠くまで届きにくくなります。
- 素子数を増やすと、指向性指数(DI)が大きくなり、雑音の中から信号を取り出しやすくなります。
- 能動ソナーでは音が目標まで往復するため、SNR の式に
2TLが入ります。距離を伸ばしたときの影響は、受動ソナーより大きくなります。
最初はプリセットを切り替えて全体の傾向を比べ、次にスライダーを一つずつ動かすのがおすすめです。
画面に表示される値
- 音速 c:水温、塩分、深さを使い、Mackenzie の近似式で求めます。
- 波長 λ:
λ = c / fで求めます。 - 吸収係数 α:周波数に応じて音が吸収される大きさを、教材用の式で見積もります。
- 片道の伝搬損失(TL):音の広がりによる損失と吸収による損失を足した値です。
- 往復時間:送信した音が目標で反射して戻るまでの時間を
2R / cで求めます。 - 指向性指数(DI):
10 log10(N)を使った理想的な配列利得の近似です。 - 受動・能動の SNR:信号と雑音の差を、これまでに学んだ簡略式で見積もります。
実際の海では、海面や海底での反射、屈折、残響なども影響します。このシミュレータでは、まず主要な関係に絞って学びます。
4 つのプリセットを比べる
プリセットを選ぶと、次の値がまとめて設定されます。表を見て結果を予想してからボタンを押すと、どの条件が効いているかを考えやすくなります。
| プリセット | モード | 水温 | 塩分 | 深さ | 周波数 | 距離 | SL | TS | NL | N | 拡散係数 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 浅海・短距離 | 能動 | 18 °C | 35 PSU | 30 m | 30 kHz | 300 m | 210 dB | −18 dB | 65 dB | 8 | 20 |
| 中距離 | 能動 | 10 °C | 35 PSU | 200 m | 12 kHz | 2500 m | 215 dB | −12 dB | 70 dB | 16 | 20 |
| 高周波・吸収大 | 能動 | 8 °C | 35 PSU | 100 m | 120 kHz | 800 m | 220 dB | −25 dB | 60 dB | 8 | 20 |
| 受動監視 | 受動 | 12 °C | 35 PSU | 500 m | 1.5 kHz | 6000 m | 170 dB | −15 dB | 75 dB | 32 | 15 |
たとえば 高周波・吸収大 では、120 kHz の音が 800 m を往復します。吸収の影響が大きく、能動 SNR は約 −33 dB まで下がります。
SO101 ソナーシミュレータ
受動 SNR
能動 SNR
距離と片道 TL の関係
現在の周波数と拡散係数で、距離に対する片道 TL の増え方を表示します。
設定は、このブラウザの localStorage にだけ保存され、サーバーには送信されません。このシミュレータは教材用の簡略モデルです。実際の設計では、屈折、海面・海底での散乱、残響、より詳しい吸収モデルも考慮します。
操作するときの進め方
- まず 浅海・短距離 を選び、表示される値を基準として覚えます。
- 距離だけを動かし、片道 TL、往復時間、2 種類の SNR がどう変わるかを見ます。
- 距離を元に戻し、今度は周波数だけを動かして、波長と吸収係数を比べます。
- 最後に素子数を動かし、DI と SNR が同じ量だけ変わることを確かめます。
シミュレータで理解を確かめよう
4 つのプリセットを選び、画面に表示される値を読み取って答えてください。
Q1. シミュレータで 浅海・短距離 を選ぶと、往復時間 はおよそ何 ms と表示されますか。
約 0.396 秒を ms に直してみましょう。
浅海・短距離では、往復時間は約 0.396 s です。1 s は 1000 ms なので、約 396 ms になります。
Q2. 中距離 を選ぶと、片道の伝搬損失(TL) はおよそ何 dB と表示されますか。
72 dB を少し上回る値です。
中距離で表示される片道の伝搬損失は、約 72.1 dB です。
Q3. 受動監視 を選ぶと、指向性指数(DI) はおよそ何 dB と表示されますか。ここでは理想的な配列利得で近似しています。
素子数は 32 です。10 log10(32) を計算してみましょう。
受動監視では 32 素子を使う設定です。10 log10(32) から、DI は約 15.1 dB になります。
Q4. 高周波・吸収大 を選ぶと、表示される 能動 SNR はどの範囲に入りますか。
周波数を高くすると吸収が増え、能動 SNR は大きく下がります。
高周波・吸収大では、能動 SNR は約 −33 dB です。この条件での検出は非常に難しいと分かります。
補足:シミュレータで使う吸収係数の式
ここからは計算式の詳細です。操作の傾向をつかむだけなら、まずは「周波数を高くすると吸収が増えやすい」と理解しておけば十分です。
シミュレータと第 7 章の実装では、周波数 f [kHz] から吸収係数 α [dB/km] を次の教材用簡略式で求めます。
α [dB/km] = 0.11 · f² / (1 + f²)
+ 44 · f² / (4100 + f²)
+ 0.000275 · f²
+ 0.003
これは François-Garrison (1982) や Ainslie-McColm (1998) のモデルを学習用に簡略化し、温度、塩分、pH、深さへの依存を省いた式です。各項は、おおよそ次の吸収過程を表します。
- 第 1 項
0.11 f² / (1 + f²):ホウ酸(B(OH)₃)の緩和による、低周波域での吸収。 - 第 2 項
44 f² / (4100 + f²):硫酸マグネシウム(MgSO₄)の緩和による、中周波域での吸収。 - 第 3 項
0.000275 f²:純水の粘性による、高周波域での吸収。 - 第 4 項
0.003:教材用の定数項。
この式は、典型的な海水での吸収を概算するためのものです。実際の設計では、温度、塩分、pH、深さを入力に含めた完全なモデルを使います。
この章で持ち帰ること
- 距離が長くなると、伝搬損失と往復時間が増え、SNR は下がります。
- 周波数が高くなると、波長は短くなる一方、吸収は増えやすくなります。
- 素子数を増やすと DI が大きくなり、SNR の改善につながります。
- 能動ソナーは往復分の
2TLを受けるため、距離の影響が大きくなります。